「夏祭り」 夜の帳も降りる頃、笛や太鼓に誘われて 浴衣羽織って下駄履いて、 お前の手に引かれるままに 村はずれの神社に詣でる私とお前。 「わっしょい、わっしょい!」と 子供が担ぐ御神輿や子供が牽いてる山車を見ながら、 昔それを担いだり牽いたりしている私の横で 必死に声援してくれたお前の幼顔を思い出す。 村はずれの神社、 着慣れない浴衣と履き慣れない下駄に戸惑いながら 私にしがみつくように神社の長い階段を登るお前と 氏神様に二人並んで詣でて今年一年の豊作を祈る。 神社の神主に 「今年も二人揃ってきたね、そろそろ三人で来たら?」と冷やかされ、 村の若い衆には 「村の豊作より家庭の豊作を祈ったら」と御神酒を振る舞われ、 呑んでもいないのに顔を赤らめるお前。 夜店を流してお菓子を食べ歩くお前の姿は昔とさほど変わらない そして金魚すくいを見つけると必ず立ち止まって私を呼ぶのも昔のまま お前にねだられるまま金魚をすくうのも毎年のこと 毎年すくっては夏の終わりまでに生き残るのは少ないのにね。 夜の帳も降りきって子供達が家路につく頃、 夜宮、夜神楽始まって、これからが大人の祭り 御神酒が回った若い衆が騒ぎ出すと お前はそっと私の袖を引いた… 藤次郎正秀